Ｍ澤の条件。

　Ｍ澤の家の近くに焼肉食べ放題があって、そこがいいというのでそこでひとしきり話を聞いてみた。

　このままの関係を望むのか？と聞いてみたところ、答えはＮＯ。では、別れたいのか？と聞いてみたところ、答えはＹＥＳでもＮＯでもないはっきりしない答え。なので、やっぱり別れたくないなんだろ？と聞いてみたところ、答えはＮＯ。今のままの関係がいいのかと聞いてみたところ、答えはＮＯ。結婚したくないのか、と聞いてみたところ、答えはＮＯ。このままだと、５年後は籍を入れないで子ども隠して生活している教員とかになるぞ？と聞いたら、そんな教員聞いたことがない、という答え。なぜ、別れられないのか？と聞いてみたところ、答えは「寂しいから。」の１点張り。

　なんで寂しいのか、いろいろ雑談をしながら話をしていると、Ｍ澤が意外なことを告白した。実は私は３人兄妹で、２つ上の兄と２つ下の妹がいる。兄は新聞記者で、妹はダウン症なのだそうだ。それで、母は妹につきっきりになっていたので、真ん中のＭ澤は、母からも父からも愛情を注がれることがなかったという。私が寂しがりやなのは、その反動なのだという。

　このままでは埒があかないので、ちょっとフェイントをかけてみた。実は俺にも今付き合おうと思っている人がいるが、新しい学校でも出会いがあるかもしれないので、今迷っている。Ｍ澤が別れる気があるのなら、俺はその人のことは忘れて、Ｍ澤と付き合いたいという気持ちの方が強いのだが・・・、と言ってみた。

　すると、ようやくＭ澤の重い口が開いた。「ショックにならないでね。正直、しんさんが臨時でなかったら今すぐにでも別れたい。試験に合格しなかったらどうするの？」という質問。

　「他府県を受ける。それでもダメなら臨時を続ける。」という答えにＭ澤は、「他府県でもいいから、試験に受かって欲しい。」という返答。要するに、正教員になるということが俺と付き合う条件のようだ。

　Ｍ澤の家は父が県庁のえらいさんで、母も公務員というエリート家族。やはり世間体をかなり気にするようだ。まぁ、そうでなくとも女が正採で男が臨時というのはいかにも体裁が悪いわな。しかし、冷静になって考えてみると、兵庫県の試験や大阪府の試験に受かったとしても、どこに飛ばされるか分からない。受かったとしても、Ｍ澤としょっちゅう会うというわけにもいかないし、将来的にもあまりいい方向に向かわないだろう。実質的には、神戸市の採用試験に受かるしか方法はないのかもしれない・・・。さて、どうしたものか。。。